在庫管理アプリとは、企業内にある商品在庫をデジタル管理するためのツール。かつては「職人芸」「高度に属人化されたスキル」などと言われた在庫管理に関し、誰もが容易かつ効率的に在庫管理できるツールとして、現在では多くの現場に導入されています。
在庫管理アプリの主な機能としては、リアルタイムによる在庫追跡、不足しそうな商品の自動発注、スキャンによる棚卸しサポート、在庫データのレポート自動生成など。いずれも在庫管理業務の大幅な効率化を実現する機能です。
リアルタイムで在庫データを正しく把握し、無駄な発注や欠品を防ぐことが在庫管理アプリの導入目的。人的ミスの削減やコスト（人件費）削減なども、在庫管理アプリを導入する理由となるでしょう。
在庫管理アプリ開発会社の公式HPなどには、実際に在庫管理アプリを導入したことで棚卸し作業の大幅な軽減につながった事例も多く掲載されています。販売の機会損失減少にも在庫管理アプリは役立つでしょう。
在庫管理アプリの主な開発方法として、以下4種類の方法と特徴をご紹介します。
自社完全オリジナルの在庫管理アプリをゼロベースから開発する方法。技術的な可能である限り、カスタマイズ性や柔軟性に制限はないので、自社が蓄積してきた業務フローを完全に反映させたアプリが完成します。ゼロからの開発となる分、他の方法に比べて時間やコストが余分にかかることは避けられません。
専用のツールを使い、ドラッグ＆ドロップなどで簡単にアプリを開発する方法。プログラミングの知識は不要なので、基本的には誰でも在庫管理アプリを開発できます。コストが安くて簡単かつ短期でアプリを開発できる点は魅力ですが、カスタマイズ性は低いので自社業務への適合性において限界があります。
既存のクラウドシステムで提供されるサービス。初期コストが安いので、すぐに利用したい企業には適したシステムです。ただし、あらかじめ設定された機能しか使えないので、場合によっては自社の業務フローをアプリの機能に合わせる必要が生じるかもしれません。
既存のソフトウェアを自社ニーズに合わせてカスタマイズする方法。スクラッチ開発よりはカスタマイズ性が劣るものの、概ね自社ニーズに適合させることは可能です。ただし、カスタマイズ性はソフトの根本仕様に依存するため、大幅な機能追加は難しいこともあります。
各開発方法のメリット・デメリットを見てみましょう。
| 開発方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| スクラッチ開発 | 自社独自の業務フローに合わせて完全カスタマイズすることが可能。 | 高額なコストと相応の開発期間が必要。開発後の保守費用も安くない。 |
| ノーコード・ローコード | 誰でも簡単かつ短期間でアプリ開発が可能。コストも比較的安い。 | カスタマイズ性が低いので、自社業務のフローに合わせることは難しい。 |
| SaaS型システム | 初期コストが安いので、すぐにでも導入が可能。クラウド管理なので、ほとんど手間がかからない。 | カスタマイズ性は低いので、自社業務のフローに合わせられないこともある。 |
| パッケージソフトのカスタマイズ | スクラッチ開発に比べると低コスト。概ね、自社の業務フローに合わせたカスタマイズもできる。 | 拡張性に制限があるため、自社業務に合わせた完全な最適化は難しい。 |
予算や開発期間、カスタマイズ性などの要素に優先順位をつけ、自社が優先したい要素に応じて開発方法を選ぶようにしましょう。以下、例として4つのパターンを見てみます。
業種の違いにより、在庫管理アプリに求められる機能も異なります。例として、製造業、小売業、物流業の在庫管理に必要とされる必須機能を見てみましょう。
| 業種 | 必須機能 | 特徴 |
|---|---|---|
| 製造業 | 原材料・部品管理機能、発注管理機能、工程在庫管理機能、ロットトラッキング機能など | 部品のロット管理や発注最適化など、生産計画に従った在庫調整が重要なポイント。 |
| 小売業 | リアルタイム在庫表示機能、店舗間在庫移動機能、返品管理機能、売上連動機能など | 在庫や売上とのリアルタイム連動などを通じ、欠品防止や過剰在庫を防ぐことが必要。 |
| 物流業 | 配送追跡機能、入出庫管理機能、倉庫ロケーション管理機能、ピッキング指示機能など | リアルタイム入出庫管理や配送追跡機能などを通じ、効率的な倉庫運用につなげることが重要。 |
業種を問わず、基本機能とあわせて次のような機能を搭載することで、さらに在庫管理業務が効率化する可能性があります。
在庫管理アプリを通じて業務効率を向上させるためには、使いやすいUI/UXが重要。直感的な操作が可能なインターフェースとすることで、システム導入への抵抗を和らげるとともに、現場へのシステム浸透が早くなることでしょう。
視認性の良い操作画面とシンプルな操作フロー、担当者ごとに必要な情報を表示できるカスタマイズ性の高いダッシュボード、在庫が一定数を下回った際の自動アラート機能なども取り入れることで、現場の業務効率は大きく向上するでしょう。
在庫管理アプリの費用は、開発方法の違いにより大きく異なります。また、同じ開発方法であっても、追加機能の種類や数、難度などによっても費用には幅があります。以上を前提に、主な開発方法別で費用相場を見てみましょう。
| 開発方法 | 費用相場 | 特徴 |
|---|---|---|
| スクラッチ開発 | 500万～3000万円以上 | 自社要件に応じて完全カスタマイズが可能だが、開発期間は長くなり開発コストは高くなる傾向がある。 |
| ノーコード・ローコード開発 | 50万～300万円 | 既存プラットフォームを使って簡単に、かつ短期間でアプリ開発が可能。ただし、複雑なカスタマイズは困難。 |
| SaaS型在庫管理システム | 月額5千～10万円程度 | 低コストですぐに利用できる点が魅力。基本性能は搭載されているものの、完全に自社業務へ適合するわけではない。 |
| パッケージソフトのカスタマイズ | 100万～1000万円程度 | 既存ソフトをベースにカスタマイズするため、スクラッチ開発よりは安価。ただし、完全オリジナルに仕上げることは困難。 |
開発費用が変動する主な要因の1つが、機能の複雑さ。シンプルな機能のみであれば安く開発できるものの、AI連携などを含めた高度な分析機能等を搭載すれば、費用は大きく上がります。
また、デザインのカスタマイズ性も費用に影響を与える大きな要素。UI/UXの設計が細かいほど、開発費用は上がります。
なお、保守費用が必要な方法（スクラッチ開発とカスタマイズソフト）を選ぶと、導入後もランニングコストがかかり続けます。
在庫管理アプリの開発コストを抑えるポイントの1つが、テンプレートや既存ソフトを活用して開発を行うこと。また、機能を必要最小限に抑えることも、コスト抑制につながる大事な考え方です。
ほかにも、オープンソースの在庫管理システムをカスタマイズしたり、自社サーバーではなくクラウド型サービスを利用したりすれば、トータルコストの削減に貢献することでしょう。
在庫管理アプリを自社開発すればコストを抑えられるのでは？と考える企業もあるようですが、アプリの自社開発には種々の現実的な困難が立ちはだかります。
たとえば、自社内に十分なスキルのある多くのエンジニアがいる企業でなければ、アプリの自社開発は困難でしょう。仮に、そのようなエンジニアが大勢いたとしても、本来業務と並行してアプリ開発も進めることは、簡単ではありません。
困難な中で無理に自社開発を進めた場合、結果として外注よりも長い期間、高いコストがかかる可能性もあります。
在庫管理アプリを外注する主なメリット・デメリットを見てみましょう。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 技術力 | アプリ開発の専門業者へ依頼するため、高い技術力と高品質な仕上がりが期待できる。 | 要件定義を詳細かつ明確に行わなければ、認識の齟齬から期待したアプリに仕上がらない恐れがある。 |
| 開発スピード | アプリ開発の専門業者へ依頼するため、自社開発に比べて短期間での完成が期待できる。 | 開発を一任する以上、外注先のスケジュール次第では期待した納期が設定されない可能性もある。 |
| コスト管理 | 初期費用は避けられないものの、長期的には自社の人件費抑制につながりうる。 | 開発方法によっては初期費用が莫大になる。場合によっては予算オーバーとなる可能性もある。 |
| 保守・運用 | 継続的なサポートを受けられる。万が一のトラブルが発生しても対応が迅速。 | 保守・運用コストが継続的にかかる。時間とともに、外注先への依存度も高くなる。 |
アプリ開発に向けた人的リソースが不足している場合には、外注に頼らざるをえません。また、仮に十分なリソースがあったとしても、早急なアプリ導入を目指している場合には、外注のほうが頼もしいでしょう。
ほかにも、高度なカスタマイズを必要としている場合や、長期的な運用・保守サポートを前提としている場合には、自社開発ではなく外注を選択するよう推奨します。
在庫管理アプリ開発会社を選ぶときには、各開発会社における「在庫管理アプリの開発実績」を確認することが特に大事。なぜなら、在庫管理は専門性の高い職種であるため、エンジニアのスキルだけでは、クライアントが満足できるアプリに仕上がらない可能性もあるからです。在庫管理のポイントを押さえている実績豊富な開発会社を選び、十分に打ち合わせを行った上で開発を依頼しましょう。
ほかにも、費用対効果や保守・運用サポートの有無、レスポンスの早さなどが重要な検討ポイントになります。
開発会社へ見積もりを依頼する際には、開発範囲を明確にすることが大事。どの範囲までの開発に関する費用なのかを明確化しなければ、事後的に追加費用を請求される可能性があるからです。
ほかにも、納期が明確かどうか、導入後のサポート体制が万全かどうか、ランニングコストの有無や金額はいくらか等々、見積もりの段階でチェックしておくべき項目は意外に多くあります。
外注先選びで失敗しないためには、要件を明確に伝えることが非常に大事。要件が曖昧なまま開発を依頼すると、期待した機能が実装されていなかったり、不要な機能が搭載されていたりすることがあるからです。それら不具合の調整のために追加費用がかかる恐れもあるので、あらかじめ要件は明確に伝えておきましょう。
また、価格の安さだけで決めないことも重要です。あえて価格が高すぎる業者を選ぶ必要はありませんが、安すぎる業者を選ぶこともお勧めできません。納得できる適正価格を提示した業者の中から、より自社ニーズにマッチした業者を選ぶと良いでしょう。
在庫管理アプリの開発方法には、主に4種類あります。シンプルな機能のみを求めるならば、ノーコード・ローコード開発でも十分に対応が可能でしょう。
一方で、ある程度のカスタマイズ性を求めるならば、ノーコード・ローコード開発では不十分。納期やコストも考慮すれば、専門会社への外注も視野に入ります。
自社開発に比べ、外注は初期コストが高くなるものの、長期的にアプリを使い続ける前提ならば、必ずしも総コストは自社開発より高いとは言えません。
コストパフォーマンスも十分に考慮し、自社に過不足のない在庫管理アプリの開発を目指しましょう。
ここでは、「PoC（Proof of Concept：概念実証）や実現性」に強いベンダー、「連携やインフラに関する技術力と提案力」に優れたベンダー、「低コストの設計・保守」を可能にするベンダーをそれぞれ紹介します。
